家づくりの核を決めないから”揉める”

住宅建築において、”契約”は大きな節目です。
構造、間取り、デザイン、設備、価格、保証、 アフターサービスなど、 建築業者ごとの違いを見極め、結論を出すことになります。
これらを全て理解したうえで、1社に絞るのはとても困難です。
契約イコール内容を理解していることになり、必然的に言った言わないが通用しない状況になるため、判断ミスは避けなければいけません。

題目にある ”核”(最も重視すること) を決めずに契約してしまうと、契約後の打ち合わせで要望が叶わない箇所に直面するたびに ”こんなはずじゃなかった” という気持ちになり、不満が臨界点を超えると建築業者と揉めることになります。
反面、核を決めていると、施主自身が ” 最も重視している部分を叶えられるのがこの建築業者” であることを理解した上で契約しているため、多少の許容範囲が生まれ、ゆとりを持って打ち合わせに臨むことができます。

また、建築業者も施主が最も重視する点をわかっているからこそ、ブレない芯のある提案をすることにつな がり、最終的には施主の満足度を高めることができるのです。建築業界にクレームはつきものですので、揉める確率は決して低くありません。
実際、私の会社にも普段から相談が寄せられますが、内容を詳しく聞いていくと、クレームになる原因が建築業者にあるかというとそうでもないのです。
施主側に厳しく表現すると、施主の契約に対する認識の甘さや、わがままがクレームにつながっていることが多々あります。
そもそも図面の内容が詰まっていないにも関わらず契約していたり、出された書面に目を通してすらいないことも多いです。
また、高いお金を払って建築するのだから、わがままが通るものと思っている方も多い印象です。

できないことや叶えられないことがあるのが建築です。

図面や書類の確認もそこそこに契約した方ほど揉めていますし、SNSで たくさん情報収集し熱心に考えていそうな方も、インスタでこんな風に書いてあったからそうなると思っていたなど、意味のわからない理由で揉めています。

契約書を交わす理由は、言った言わないで後から揉めないようにするために書面で残すのです。
にも関わらず、書面の内容を理解していないのは、施主の認識の甘さに他なりません。有名なメーカーだからとか、信頼できる担当者だと思ったから契約したというのは、契約書には記載されていません。
あくまで、図面や書面の内容を元に進んでいくのが建築なのです。
それを理解せずに契約した最悪の結果が解約(キャンセル)です。
金銭的なリスクを伴うこともありますし、打ち合わせに費やした時間もほとんどがムダになってしまいます。
何よりお互い気分が悪いものです。気持ちよく家づくりを進めるために、住宅建築を検討し始めたらまず、核を決めるようにして下さい。

プロ対初心者

ここでは、業社と施主との格差について書きます。
私は大手住宅メーカーで営業経験を積んできました。
入社9年目に同期で2番目の早さで展示場店長に昇進し、ハウジングセンターでの展示場運営や部下指導などに従事しました。たくさんのお客様とご契約頂くことができ、売ることのプロでした。
私はたくさんの経験を積んでいますが、取引相手となる施主は、全ての経験が初めてとなる初心者です。

その両者が相対する時、お客様は私のことを信頼できる営業マンとして捉えます。
情報量、知識量、経験値などほぼ全てにおいてお客様よりも豊富であり、それこそがお客様に契約を頂くための武器となります。
その反面、契約棟数が増えるにつれ、効率を追求することを迫られ、打ち合わせを短時間で済ませるための技術を駆使していたことも事実です。
営業マンは絶えずスケジュールを意識しながら打ち合わせをしており、打ち合わせの時間配分も、建築工期 全体のスケジュールも管理しています。

契約書を締結する際には、打ち合わせ期間や工期が予め決 められており、それは会社と施主との約束事になります。
建築会社は、契約してから引き渡しまでのスケジュールを短く設定するほうが、経費節減や解約(キャンセル)の抑制につながります。
そして、打ち合わせ期間が十分でない場合に営業マンがやりがちなことは ”より良くなる提案” を避けることです。

例えば、他の業者に見積もりを取らなければ費用の算出ができないような設備や造作の提案をやめ、煩雑で手間のかかることを省くのです。
これは決して営業マンが悪いということではありません。
契約書に記載され工程通りにスケジュールを管理するために必要なことなのです。
ただ施主の立場からするとどうでしょうか。

提案された内容を、採用するかしないは別にして、より良くなる提案なら、 ”聞いてから判断したい” と思うのが本音ではないでしょうか。

ここに存在するのは、営業マンから ”聞かないと、気付けない” という施主の情報量の少なさによる、営業マンとの格差なのです。


現在はインターネットやSNSから簡単に情報を入手できるようになりました。
しかし、SNSには表面的な情報も多く、その内容が施主にあった内容かどうかを判断することが必要で、そこにも知識が必要ですし、仮にSNSで得た情報を営業マンにぶつけたところで、経験豊富な営業マンであれば、こう言われたらこう返すと施主はそれ以上追求しなくなる、キラーワードを持っています。
これは、経験豊富な営業マンこそ持っていると言っても過言ではありません。
キラーワードの一つを例に挙げるのであれば、『高くなりますよ』でしょうか。

これを言われると、予算いっぱいで契約した施主の場合は、なかなか採用しにくくなってしまいます。では、施主と営業マンの格差を埋めるために必要なもの何でしょうか。それは ”第3 者目線での提案や指摘” です。
売る側でも買う側でもなく、その取引の質を純粋に高めようとする存在です。

別の仕事で例えると、大リーグのプロ野球選手の契約交渉を行うスポーツエージェン ト(年俸交渉人)をイメージして下さい。
スポーツエージェントの仕事は、選手に代わってチームと契約交渉を行うことです。
選手自身は交渉や契約に不慣れですので、チームの契約担当者と交渉するとどうしても不利になります。
選手に代わって意見を主張し、チームと対等に交渉することが目的です。
契約が成立すれば、契約金や年俸の管理を行ったり、選手がプレーに集中できるように、選手や家族の引っ越し、新しい住居探しなど様々なサポートを行うエージェントもいるようです。

家づくりに例えるなら、契約前の交渉から介入し、最適な契約条件を引き出し、かつ、契約後のアフターまで行うのです。

そうすることで、 ”売るプロ” と、 ”初心者の施主” が対等な取引を行うことができるようになるのです。

契約後に金額が上がる理由と防ぎ方

”契約後に金額が上がった” という不満をよく耳にします。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
それは、 ”契約の仕方が悪い” からです。
悪いと言うのは業者が悪いのではありません。
はっきり言うと施主が悪いのです。
どのような状態で契約をするかは施主の判断だからです。

(もちろん、強引なセールスをされて売りつけられる場合は、業者が悪い場合もあります。)では、悪い契約の仕方と、良い契約の仕方にはどのような違いがあるでしょうか。
その違いは、 ” 図面の精度” にあります。
悪い契約をしてしまった施主は、営業マンからこのようなことを言われています。
それは、

『図面は契約後でも変更が可能です。』『ほとんどのお客様が契約後に図面が変わります。』
『ゆっくり考えましょう。』などです。

お客様想いの良い言葉に聞こえますが、 これは落とし穴だと思って下さい。

図面が変われば、金額が変わるのは当然のことです。もちろん、建物の大きさが変われば金額が変わるのはイメージできますが、私の考える図面の精度とは、間取りのことだけではありません。
図面には、設備の仕様や建具の種類など、あらゆる情報 が記載されています。
その一つ一つが ”価格の根拠” となるものなのです。
中には契約時の図面 に、仕様が記載されていない。仕様書(設備の種類などが文字で記載された書類)の添付がない。
部材ごとの価格が書かれた見積書の添付がない。
このような ”ないない” だらけの状態で契約を求める業者がいるのも事実です。
そして、 ”ないから悪い” かと言うとそうではありませ ん。
その内容で契約をするかどうかを判断するのは、施主の責任において行うことなのです。
ですから、契約後に予想以上に金額が変動するのを避けたければ、以下の書類を ”時間をかけて吟味” して下さい。(”時間をかけて吟味”と書いた理由は後に記載します。)


1-1平面図
家の大きさや形が大きく変動することがないくらいに打ち合わせを重ねたか (真四角の30坪の住宅と、変形した30坪では同じ広さでも価格が異なる。)


1ー2立面図
家の形は好みの形になっているか
(屋根の形状で価格が大きく変わる場合もある。)


1-3配置図
敷地の中のどの位置でどの高さに建物を配置するか決めたか (建物を道路側に配置するのと道路から離れて配置するのでは、配管の距離が変わるため、屋外 の配管工事費が変わる。また、敷地に高低差がある場合は、コンクリートブロックを積む工事 や、基礎補強工事にかかる金額が変わる場合もある。)

2仕様書
(建物の構成が文字で記載された書類 基礎、外壁、設備、建具、壁紙などの種類) 設備、建具、フローリングなど、種類が変わると価格も変わるため、施主の求めるグレードのものが盛り込まれた内容になっているか 。

3見積書
(食器洗い機・・・円 ○○グレード建具・・・円など、部材ごとの価格を記載) 詳細な見積もりがないと、契約時に図面に盛り込んでいたものを削減する場合に、価格の根拠がないため、正しく減額されているかの確認ができなくなる (資金計画表を見積書と勘違いしている施主も多いが、あくまで価格の根拠となるのは見積書)
ここで”時間をかけて”吟味”して下さいと言う理由を説明します。
この書類は契約締結日に交付されることが多く、その日に初めて目にする施主がほとんどなのです。
初心者である施主は、家づくりがどのように進んで行くかを事前に知らないため、
この書類が契約日に出てきても何の疑問も抱くことができません。
それが普通と考えてしまうのです。

しかしよく考えると、
契約当日に詳細な見積もりや文字だらけの仕様書が出てきて、
その場で冷静に必要な情報を取捨選択し、その上で契約書にサインすることが可能でしょうか。
私はそうは思いません。
最低でも”契約予定日 の1回前”の打ち合わせで書類をもらい、”時間をかけて吟味”するべきです。
そして、質問や不安な点をまとめた上で契約日当日を迎え、その質問や不安を解消した上で契約することで、契約後に ”こんなはずじゃなかった”(金額が上がる) となることを防ぐことができるのです。

キャンペーン イコール 得 ではない

ここでイメージして頂きたいキャンペーンとは、期間限定での値引きとか、オプションが無料で付くことです。
この話をする理由は2つあります。
1つ目は、キャンペーンは決して ”特別ではない” ということと。
2つ目は、最後に施主の踏ん切り(契約締結)を後押しする重要な ”口実” となるからです。
ここで言う口実は、住宅メーカーの側の口実ではありません。
施主が一生に一度の大きな買い物をした後に、あのキャンペーンがあったから仕方なかったと、ある意味で ”施主自身を正当化” するための口実です。(何千万もする買い物をして、やったー嬉しい!という 感覚を持てる人は羨ましい限りです) 家づくりをある程度進めている方なら既にお気づきかもしれませんが、いつでも何らかのキャンペーンを実施している業者が数多くあります。
そしてこれは悪いことではありません。
私が前段で書いてきた、1家づくりの核を決め、2第3者を交えて検討し、3必要な書類を時間をかけて吟味した後は、営業マンが頃合いを見計らって切り出すキャンペーンに是非乗っかって下さい。そして、 ”気持ちよく契約”して下さい。

キャンペーンは特別ではありませんし、この機会を逃しても次がありますので、
決して”安くなるから、とりあえずハンコ”は、やめて下さい。
高い確率で失敗します。
(税制や補助金によるメリットで期限が区切られる場合もありますので、そこは冷静に判断して下さい)対峙する営業マンは、自社の建物を売ることが仕事であり、決して他のメーカーの建物を売ることはできません。全てに関して、競合他社を凌いでいるとは言わないまでも、最終的には自社の建物が一番優れていて、施主に合っていることを語るしかないのです。

また、買う側も、比較する競合他社の中で、全てにおいて優れている業者と巡り会うのは至難の業と言えるでしょう。
だからこそ、両者が折り合いをつけて契約を結ぶために必要な口実が、キャンペーンだと思うのです。

家づくりにおける失敗の定義と失敗を防ぐ2つの方法

ここまで”失敗しない家づくり論”をお読み頂き有難うございます。
最後に、家づくりにおける失敗を定義して締めくくります。

私の考える失敗は、
”済んだ後に後悔が残る”
ということです。

”済んだ後” の代表例は、
『あの時契約しなければよかった』ですが、
他にも『リビングにもっと収納をつければよかった』『思ったように家具が配置できなかった』
『スイッチをこっちにもつければよかった』
『コンセントをもっとつければよかった』
『この窓をくもりガラスにすれば よかった』
『シャッターを電動にしておけばよかった』など、あげればキリがありません。
”済んだ後に後悔” が数多く積み重なることは、
”住んだ後に後悔が残る”ことを意味しており、絶対に避けなければいけません。
それを避ける方法は2つあります。


1つ目は、 ”プロ(設計士や営業マン)からの提案” を優先順位の1番とすることです。
施主の大半はSNSで情報収集しています。
そこで得た知識を要望としてプロに伝えた時に、『わかりました。できます。』と言われる回数が多ければ多いほど施主は嬉しいでしょう。
しかし見方を 変えるとこれでは敷地に合わせた最適な提案とはならないのです。
プロの仕事は、施主からの要望を聞き入れるだけでなく、
要素に分解したうえで ”敷地に合わせてリサイズ” できることなのです。

大雑把に言うと、『この敷地は、長細い形状をしているから、シューズクロセットは不向き な土地です』『服が多いとお聞きしていますので、ウォークインクロセットにしない方が収納の効率が良くなります』といったような、ノーが言えることが、 ”本当の意味でのプロからの提案” です。
決してプロの言いなりになって下さいと言っているわけではありません。ただ、営業マンや 設計士の前でスマホを片手にSNSを開き、『こんな感じにして下さい。』では、決して敷地にあった良い家にはなりません。

2つ目は、家づくりの初期段階から、 ”第3者を交えて検討する” ことです。
誰しも得意不得意があるように、優秀な営業マンや設計士でも ”善意の過失” や ”考え方の偏り” は存在します。
第3者を交えても、過失や偏りを完全になくすことはできませんが、
”より多くの気付き” から、
初心者である施主の心強い味方になると共に、出来上がる家の満足度が高くなることは間違いありません。 昨今、スーモカウンターに代表される相談窓口では、お客様の要望をヒアリングし、要望に沿った建築業者を紹介してくれるサービスを提供しており、そこから家づくりを始める方も増えて きました。
住宅展示場に家を見に行くところから家づくりが始まるストーリーが変化する時を迎 えているのです。
それはなぜかというと、施主自身が第3者の信頼できる意見を求めているからに他なりません。
情報過多の現代において、溢れている情報を整理し、 ”最適化してくれる存在” が求められているのです。

私が代表を務める住宅建築相談窓口のコンセプトは、住まいの”買い方をデザインする”
プロのハウスエージェントが初期段階から要望を整理し、モデルハウスの見学や建築業社との商談にも同席します。
契約後にも、より良くなる様々なアドバイスをします。
建築業社を紹介して終 わりでは決してありません。
住まいを買うという行為全体をデザインし、プロデュースすることで、あなたの住まいを理想に近づけることができます。
是非、HATARAXIAと一緒に家づくりを進 めましょう。

株式会社HATARAXIA (ハタラクシア)

代表取締役 植木 直穂